消えていく記憶 認知症の南田洋子さん

 
 「アルバイト?学生さん?うちの息子の時代はね、安保安保、革命だーって、ずいぶん心配させられましたよ。ありがとう。元気でね」。
 
 南田洋子が最後に演じた役の最後のセリフである。奇しくも認知症の女性の役であった。

 2004年に夫婦で出演した旅番組で、未放映になった部分がある。南田と長門の会話がかみ合わず、突然南田が怒り出したのだ。この頃から病気が進行していたと考えられる。
 
南田  「あなたはどう思う?」
長門 「何かの活字で洋子が俺にやり返したと書いてあったと?」
 
「そうなの?」とスタッフに確認する長門。スタッフは「活字はそこは見てなかったです」
長門 (スタッフに)「そうでしょ?」

南田が長門の記憶にないことを言い出したのだ。

南田 「もういいわ。私をそういうウソつきにするんだったら、これから一切口きかない」

呆然とする長門。
 
 3年前に北海道のロケで「セリフが言えないから、カメラの死角に台本を置いていい?」という南田洋子に対して「だめだ。そんなのは役者じゃない!」と長門裕之は叱った。記憶力の衰えでセリフを覚えることが出来なくなっていた。そしてその後突然、「セリフを覚えられないから、役者をやめたい」と南田は言った。

 その後に芸能界から姿を消した南田洋子。認知症が発覚してから長門裕之の献身的な介護が始まった。症状は確実に進んでいる。「アカイヨ、ヨウコ、アッチニイクノ」がトイレに行きたいという合図だ。トイレでなくとも、不安になると、「アカイヨ」ということがあるという。
 
 トイレに連れて行く。「うるさいなぁ」「うるさいのはよく分かってる。お前機嫌がいいのか悪いのか分からないな」。毎日血圧を測る長門も自身の健康が気になるが、「今は絶対に死ねない。洋子のことは俺にしか分からないから」。南田を寝かせるときには「愛してるよ」という。「洋子もだよ」と南田も返す。
 
 仕事に行く長門を玄関まで送る南田。長門が立って片足を上げて靴を履いていると、うしろから体を支える南田。「行ってくるよ」というと「行ってらっしゃい」といって笑顔で見送っていた。開いた玄関ドアから入ってきた空気に「今日はちょっと涼しいわ」と外の空気を感じていた。ここだけ見ると、夫婦のごく普通の日常を見ている気がする。何かの拍子に、女優・南田洋子に戻れるような、そんな気もする。
 
 それまで南田が外出を拒否していたこともあり、専門医に診せていなかったが、VTRに収録した南田を都内の病院で医師に見せた。結果は「アルツハイマー性認知症の疑いがある」ということであった。その中で、「奥様ができることは、本人にやらせてください。なんでもやってしまうと、病態が悪くなる」とのアドバイスもあった。 
 
 人は支え合って生きていると言うことがある。南田に支えられてきた長門が今度は支える役なのかもしれない。人生という舞台で二人の共演はこれからも続いていくことだろう。そこには決められたセリフではなく、アドリブで体当たりする難しい役どころが待っている。俳優としても人間としても大御所のお二人なら、難役でもこなせるに違いない。
 
 小さいころからテレビでごく当たり前のように見ていたかたが、老いてしまい、記憶障害になる。生きていくと言うことは、そうした現実を受け止めなくてはならない辛いこともある。
 
 長門さん、ご自身もご自愛下さい。南田さんと楽しい人生が続きますようお祈りいたします。
 
 
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★ 南田洋子の認知症「介護は恩返し」長門裕之(本ブログ・08/10/4)
★ ドキュメント 消えゆく妻の記憶…長門・南田の日常 「今の洋子を残したい」(産経新聞・08/10/30)
 
 

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