言葉のリサイクル

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「半沢直樹」最終回 タンカが痛快さに花を添えた

 英語で数えられる名詞が複数になると名詞の最後に「s」が付くことは知られている。複数形になるときには必ず「s」が付くのだ。では、「1.5」は単数、複数のどちらになるか。
 
 TBS系ドラマ「半沢直樹」では、主人公の半沢直樹(堺雅人)が切り出すタンカが痛快だった。銀行内を取り巻く不正を次々と暴くそのさまは、日曜の夜の放送であったが、次の月曜出勤に気合いが入れられたことに違いない。視聴率は右肩上がりとなった。
 
 俳優陣が豪華だった。銀行が舞台ということもあるが、相応の年齢層の個性派俳優が脇を固めた。脇役というには躊躇するような豪華な顔ぶれもドラマの進行の潤滑油となった。
 
 かつて、「バカヤロー!私、怒ってます」というオムニバスの映画があった。バブル期に制作されたこの映画は日常的に豊かでありながら、日々のストレスに耐える主人公が最後に「バカヤロー!」と爆発させることが痛快だった。
 
 「半沢」は少し違う。「バカヤロー」の時よりも経済は停滞しているこの国で、バブル期に入行した主人公たちが理不尽な経営陣に単なるタンカを切るだけではなく、正攻法で吊し上げるその行程までもが実に痛快なのだ。半沢は放送が終了した、「水戸黄門」の印籠が出されるときのような感覚を思い出すのだ。半沢のタンカはまさに印籠であった。
 
 「たとえどんな結果になっても、俺はお前たちと同期で良かった」と半沢が渡真利忍(及川光博)と近藤直弼(滝藤賢一)に語るシーンがある。不正を相手にお返しをするのもよいが、人間生きているうちは恨み言ではなく、友情もお返ししたいものである。
 
 冒頭の答えだが、英語では1を超えたら複数形になる。つまり、「2」ではなくても「1.1」でも複数として扱う(※)。世の中でお返しをするのはせいぜい「1.5」くらいのものではないだろうか。感謝の気持ちは大きなお返しである必要はない。そして返す相手がいることに感謝したい。
 
 
 
 身勝手な保身のために、人の人生が、踏みにじられて・・
 
 積年の恨みが、怒りが、人の人生を動かして・・
 
 
 
 世の中に正義があるだろうか。この世に正義はない。この世は誰もが自分のことで精一杯だ。しかし、たった一人が声を上げることはできるのだ。「クロはクロ、シロはシロ」という声を上げるその勇気を放棄しなければ、自浄作用があることを捨てなければ、正義は形になる。人という形になるのだ。正義は人そのものなのだ。
 
 半沢は土下座にもこだわった。日本人にとって人前で土下座することは屈辱的なものである。土下座をしたことがある者にとってその苦痛は理解できる。しかし土下座を経験したことがない者にとっては、その苦痛は想像を絶するに違いない。
 
 
 半沢の妻である半沢花(上戸彩)の存在も良かった。半沢が「この電話次第では東京を離れることになるかもしれない。すまない」と花に頭を下げる。しかし花は、「地方でゆっくりするのもいいんじゃない?」と笑顔で答え、半沢の手を握った。半沢が家に帰ると、心を穏やかにさせる小さな”花”がいつも咲いていた。
 
 膝をつく者、握り拳を作る者、その手に優しく手をかける者がいる。愛情や優しさの倍返しは、いつの時代も静かに日常に溶け込んでいるのである。
 
 
 
 
★ 日曜劇場『半沢直樹』|TBSテレビ
半沢直樹 堺雅人
半沢花  上戸彩
渡真利忍 及川光博
黒崎俊一 片岡愛之助
近藤直弼 滝藤賢一
湯浅威  駿河太郎 
 
岸川慎吾 森田順平 
大和田暁 香川照之
羽根夏子 倍賞美津子
半沢慎之助 笑福亭鶴瓶
中野渡謙 北大路欣也
 
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(※)…参考「表現のためのロイヤル英文法」(旺文社)
 
 

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