「足利事件」再審公判で菅谷さんに無罪判決 裁判所が謝罪 宇都宮地裁
90年に4歳の女の子が殺害された「足利事件」で犯人とされて無期懲役が確定、証拠であったDNA鑑定に疑問があることが分かり、昨年6月に釈放された菅谷利和さん(63)の再審判決公判が26日、宇都宮地裁であった。佐藤正信裁判長は「旧DNA型鑑定に証拠能力はなく、自白も信用性が無く、虚偽であることは明らか。菅谷さんが犯人でないことは誰の目から見ても明らか」として無罪を言い渡した。
判決朗読後に佐藤裁判長は「菅谷さんの真実の声に耳を傾けられず、17年半もの長きにわたり自由を奪うことになったことは誠に申し訳なく思います」と謝罪、3人の裁判官が起立して頭を下げた。これらの裁判官の言動は異例のことだ。菅谷さんは「裁判所が謝ってくれたので、今日の天気のように気持ちが晴れました」と語った。
鹿児島の選挙違反事件、富山の強姦事件に続いて、冤罪の恐ろしさを知ることとなった。冤罪事件に見られるのが自白偏重の取り調べだ。密室での取り調べでやっていないことを「やった」と言ってしまう心理状態は理解できる。これまでにも発生したことを防げなかったことが残念である。
冤罪は司法職員が一番起こしてはならない大失態である。菅谷さんの人生は時間を奪われただけでなく、犯人という濡れ衣まで着せられた。親の死に目にも会うことができなかった。もし菅谷さんが服役中に病死でもしていたら、もはや取り返しのつかない”冤罪による死刑”と同じことになるところだった。
そして殺害された女児の遺族の方が一番聞きたくなかったことであろう。犯人逮捕で心の整理が着いたはずなのに、18年も立ってから「犯人じゃなかった」と言われて心の悲しみをどうすればよいのだろう。
足利市周辺では当時、女児4人が相次いで殺害され、今回の件も含めてすべて犯人が捕まらないまま公訴時効を迎えている。もはや、幼い子を手にかけた犯人にたどり着くことは不可能であり、犯人が野放しの状態になっているのである。
覚えている映像がある。「足利事件」を捜査していた栃木県警足利署の刑事が、遺体発見現場の河川敷で雨の中、手を合わせて犯人逮捕を誓っている画である。あの時に、きちんとした物証や犯人しか知り得ない秘密の暴露を押さえておけば、菅谷さんの自由を奪うことはせずに済んだ。
当時、取り調べを担当した刑事や検察官は菅谷さんに謝罪をしていない。捜査機関の持ってきた証拠や証言に不備があったとして裁判所が謝罪したのだから、警察と検察も同じことをしなければ今後も司法の足並みがそろわずに冤罪を生むだけだ。菅谷さんが収監されていた苦しみに比べれば、頭を下げる行為など大したことはないではないか。冤罪を前にすると、捜査機関というのは全くの無力である。
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