報道のガイドラインの一例
読売新聞の場合、自殺報道の実名報道について以下のようなガイドラインを設けている。
1. その人が自殺したことがニュースであるときは実名で書く。
2. 他人を害するか害する危険性の高い方法、場所での自殺者は実名で書く。危害とその可能性が小さい場合は匿名を選択できる。
3. 動機、場所、方法にニュース性があるときは、状況により実名か匿名か選択できる。
などとなっている。
国民の知る権利に応えるために、報道機関は取材をし発表するが、ニュースに出てくる人名を公表するか否かについては基本的には実名であるが、内容によってはそのニュース性質によってガイドラインに準じて実名報道をするかどうかを決める。
例えば、少年が学校で暴力事件を起こして逮捕される。少年法61条に基づき氏名は匿名となる。学校名は都市部であれば名前を出すかもしれないが、村に一つしか学校が無いのであれば、少年の名前が特定される恐れがあるので、詳しい所在地を隠して「県内西部」などのいい方がされる。
少年でも実名報道された例もある。
4都市で4件の射殺事件を起こした、警察庁広域重要事件108号の容疑者、永山則夫(19)である。指名手配された期間、少年とはいえ広域で発生しているという重要性や凶悪性を考慮し、報道側が国民に注意喚起する必要があったからである。
逮捕されれば匿名に切り替わるが、犯罪の態様があまりに衝撃的で広範囲に広まっていたため、そのまま実名での報道が続くこととなった。
自殺報道における実名公開はどうか。
かつての自殺報道は今と比べて非常に詳細までもが報道されていた。例えば、
●月●日午後3時ごろ、●区●町1-1の○×公園で若い男性が首をつって死んでいるのを近所の人が見つけて110番した。○×署によると、死亡したのは同区●町1-2-3、△マンション501号室、●△貿易社員、◇●一郎さん(45)の長男で、都立●●高校2年1組、次郎さん(17)と分かった。
調べによると、次郎さんは自殺する前日、一郎さんと進路を巡って口論となり「死んでやる」と言って家を出ていた。当日は学校にも行っておらず、同署では口論をきっかけに自殺したものとみている。近くには「死んで楽になる」というメモが見つかった。
という具合である。遺書があればその遺書までもが公開され、自殺の背景までもが徹底的に報道された。
しかし自殺報道は連鎖を生みかねないという懸念から、自殺報道ガイドラインが策定され、以後の報道は簡略化されている。一般人の場合は特に名前が出ることはない。
実名か匿名か以前に、自殺報道そのものを慎重に扱うようになってきた。
WHOによる「メディア関係者のための手引き」によれば、
● 自殺をセンセーショナルに扱わない。当然の行為のように扱わない。あるいは問題解決法の一つであるかのように扱わない。
● 手段を詳しく伝えない。
● どこに支援を求めることができるのかということについて、情報を提供する。
などである。
これが公人や著名人となると事情が異なるが、基本的には上記ガイドラインに沿って昨今の自殺報道はなされている。
こうしたガイドラインをあらかじめ決めておくことは有益である。言葉が人の人生を左右しかねないのが報道であり、出版であり、表現の媒体各種である。
インターネットも気軽に言葉を発信できる利便性の反面、他人の権利を侵害するのも表裏一体であることを肝に銘じたい。
★ 自殺対策(厚生労働省ウエブページ)
★ WHO 自殺予防 メディア関係者のための手引き(2008年改訂版日本語版)
《お詫び》
読売新聞社さまの引用書籍名を失念しました。下記アマゾンアソシエイト内のいずれかになりますが記憶が定かでありません。判明次第、本稿に追記いたします。