言葉のリサイクル

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アイドルの受難

 83年3月28日、沖縄市営体育館で開催されていた「松田聖子スプリングコンサート」で暴漢がステージのアイドルを襲った。襲われたのは「渚のバルコニー」を歌っていた松田聖子。37センチの薄い金属板を持った男が歌っていた松田聖子に襲いかかった。聖子は3回頭部を殴られて一時気絶。すぐに病院に搬送され、前頭部に軽い打撲傷と診断された。男は観客や警備員に取り押さえられ、駆けつけた沖縄県警沖縄署員に傷害容疑で緊急逮捕された。
 
 男は聖子のファンで埼玉県入間市に住む19歳の少年で通院歴があった。「聖子のファン。有名になりたい」「この事件を全国に放送してくれ」などと話していた。一晩で退院した聖子は「沖縄の皆さんにお返しの公演をしたい」とコメントしたが、その後24年間は聖子が沖縄を訪れることはなかった。襲われる直前の聖子の驚いた表情が忘れられない。(※)
 
 この月は、芥川賞作家の高橋三千綱さんが東京・NHK内で俳優の男に刺されて怪我をする事件、オール阪神巨人の巨人さんが元組員にビール瓶で頭部を殴打される事件も起きている。
 
 コンサートなどによるファンとの距離が近くなるイベントで、芸能人が被害に遭うことはこれまでも起きてきた。AKB48のイベントでも、独り言を言ったり握手した手を放さない者がいるなど、不届き者が時々現れていたという。
 
 岩手県滝沢市で開催されていたAKB48の握手会イベント会場で、AKBのメンバー2人(共に10代)と男性警備員(20代)が突然乱入してきた男に携帯用のノコギリで襲われた。3人は怪我を負ったが命に別状はない。殺人未遂容疑で岩手県警盛岡西署に逮捕された無職の男(24)は「人を殺そうと思った。誰でもよかった」などと供述している。
 
 この事件を期に、握手会はやめるべきであるかどうかが議論されている。当のアイドルたちがどう思っているかである。ファンとの交流の一環である握手会の類いを続けたい、というのであれば運営側は警備体制を強化して続けるべきである。
 
 ファンにとってはAKBのみならず、こうした握手イベントやライブというのは、有名人と距離を近くして交流できる唯一の機会だ。こうした意味の理解できない暴力で、楽しいイベントが軒並み中止になってしまうのはとても悲しいことだ。
 
 襲われたメンバーはまだ10代の女の子だ。怖い思いをしてしまっているのだから、他のメンバーを交えての心のケアが優先される。同じく負傷した男性警備員の素手で刃物を取り上げた行為は勇敢であった。擦過傷に骨折という大けがとはいえ、命が取られなくて本当によかった。
 
 アイドルは心を熱くし、豊かにしてくれる潤滑油のような存在だ。無抵抗な若い笑顔を襲った凶行は許すことができない。AKBのメンバーが、再び明るい笑顔でファンの前に登場する日が来ることと、襲われた3人の早期回復を切に願う。到来する梅雨の不快さすら、吹き飛ばしてくれそうな、アイドルたちの笑顔をもう一度。そして「誰でもよかった」などという愚者が近づかないよう、女の子たちを守る抜本的な対策を。
 
 
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※ 参考 1983年(昭和58年)3月29日 朝日新聞23頁「聖子さん殴られ気絶」
 
 
 

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