台風12号、東から西へ
全国的に梅雨があけて本格的な夏が始まった。庭ではセミが群れをなして鳴いており、夏の風情というよりは騒音に近い感がある。それでも夏が本格的に動き出した。
台風12号「ジョンダリ」が強い勢力を保ったまま、小笠原諸島から関東・甲信地方へ向かい、東海地方に上陸の可能性があり、東側から西側へ移動するという異例の進路である。気象庁は、「これまでの経験が役に立たないような事態が予想される」とし、「大雨特別警報の発令も考えられる」と国民に注意を呼びかけた。
この台風が恐ろしいのは進路の奇妙さだけではなく、「西日本豪雨」で被災した地域を直撃する恐れがあることだ。土砂で埋まったままの自動車を尻目に新たな水害を防ぐべく土のうを積み上げる被災者の皆さんとボランティア。これ以上の被害が増えないように祈りたい。
西日本豪雨では「ボランティアが不足している」という。ボランティアが活動しやすい週末が台風の進路となってしまった。しかしボランティアを頼るのは筋が違う。無償の誠意を集めるのではなく、国が金銭的支援をして人を集めるほうが手っ取り早い。効果があることは想像すればわかることなのに国はそうしない。
西日本豪雨の時には対策を取らずに「赤坂自民亭」なる飲み会を実施。安倍総理以下、小野寺防衛相、上川法務相ら50人近い議員が酒をあおり、その様子をツイッターに投稿。写真では親指を立てたりピースサインをしている議員もいた。宴会の日の7月5日には気象庁が緊急会見を開いており、「長時間、広範囲に渡って数十年に一度の大雨が降る恐れがある」と注意を促しており、素人の私でも「大変なことになる」と考えていた。
しかし情報が集まりやすい政府中枢は対策をとるための活動をしなかった。あのとき誰か一人でもいいから「官邸に連絡室を設置したほうがいいのではないか」といった進言をする人はいなかったのか。
しかも翌6日は、日本の犯罪史上まれに見る組織犯罪の首謀者であった松本智津夫と6人の信者が死刑を執行されることになっていた。上川法相や安倍総理も当然に知っていることであり、賛否がある死刑執行に対して厳粛に対峙すべき人たちが、前日にアルコールを飲んで宴会をし、それをわざわざ公開してみせた。おおよそ議員としての資質、それどころか、人としての品格を放棄した蛮行である。
破壊された道路や河川を担当するのは国交省である。被災地を訪れた石井国交相は、現地で広島市長に詰め寄る被災者を見ていた。被災者の男性は「スコップを持ってやってみればわかる。泥の臭さや辛さが」などと訴えたが、石井国交相は特に表情を変えなかった。
これまで日本は数多くの災害を経験してきた。噴火、地震、津波、原発事故、土砂災害。しかし時の政権は常に言う。「想定を超える災害であって予見は不可能」。実際「自民亭」に参加した議員も「正直、これほど大きな災害になるとは思わなかった」と述べている。”こんなひとたち”が国民の付託を受けて議員報酬を受け取って活動しているというのはあまりに理不尽である。
時に我々は、「正直言うと」や「想定外」という言葉が免罪符になっていると勘違いしていないだろうか。少なくともトップが言い訳する時にこうした言葉づかいをするのは想定の範囲内である。一体これだけの災害を何回経験したら気が済むというのだろうか。
玄関先でセミ1匹がひっくり返っていた。表にしてあげるとまだ動いていた。しかし右側の羽が半分なくなってしまっていた。ここに身近な台風の犠牲がひとつ。ああ、飛べなくなってしまったのか。このセミ、明日の朝はここにいるのかな。
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