惜別 〜だいすきだった先生〜
小学2年生のころ、好きになった女性の先生がいました。それは音楽の先生で色白で細身で目がぱっちりとした美人でした。
先生の家は公園の近くで私の家と200mほどしか離れていませんでした。帰り道も一緒だったため、ある日私は待ち伏せして一緒に帰ろうと考えました。しかし先生、歩くのが速い。小学2年生の私には追いつけませんでした。走っていったらわざとらしいし恥ずかしい。
それは失敗しましたが、先生に会ったら心がけていたことがありました。それは挨拶です。
「おはようございます」「こんにちは」「さようなら」。先生は、必ず笑顔で挨拶を返してをしてくれました。そんな日が何日も続きました。
そして4月を迎えて3年生になりました。音楽の授業はそれまで教室で担任の先生から教わっていたのですが、なんとこれからは音楽室でその先生に習うことになったのです。こんな嬉しいことはない、嬉しいことはないんだけれど…..。
私は悲しい運命が待っているのを知っていました。それは「転校」です。5月の半ばまでの1ヶ月半のあいだ、先生との音楽の授業は本当に楽しかった。一番前のせきで座っていて、窓際で「マーチングマーチ」をピアノで演奏しながら歌う先生をずっと見つめていました。
そして、私にとって最後の音楽の授業が終了しました。終業ベルが鳴り、私は先生に何も言わずに立ち去るつもりでした。
ところがクラスメートの誰かが、「先生!Nono、転校しちゃうんだよ!」と言ったのです。すると先生は「まあっ!」といって駆け寄ってきて、小さい私を強く抱きしめてくれました。
先生が泣いてくれているのが分かりました。私も先生の胸の中で大声で泣きたかった。あの瞬間、時が止まったのが分かりました。私は泣くのを我慢して先生に「さようなら」といって手を振ったことを覚えています。
惜別って、ああいう瞬間を言うんでしょうね。
★ 東京都練馬区立大泉南小学校