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2009年のニュースを振り返る・3【裁判員裁判制度】

 「ああ、何かニュースでやっていたな」「ひどいことする犯人だねえ」と、他人事のようにつぶやいていた裁判に、一般市民が参加する裁判員制度裁判が5月から始まった。正当な理由もなく辞退はできない。守秘義務も課せられる。法律の素人が人を裁けるのか、素人が裁いていいのか、そんな意見もあるが、全国で次々と対象となる事件が裁判員らに裁かれていった。
 
 裁判員裁判2例目となった、さいたま地裁で現住建造物等放火罪に問われた男性被告人(53)は、「素人の裁判員に判断できるわけがない」「公判で嘘は言っていないのに、主張が全く受け入れられなかった。自分が悪いことをしたのは承知しているが、厳しい」と判決を不服として控訴した。控訴審ではプロの裁判官のみで行われる。
 
 この公判廷の裁判員を務めた男性(29)は、「確かに素人で法律は分からないが、みんな真剣に議論し、裁判官も含めて全員で判断した結果。いいかげんな判決ではない。裁判員のせいにするのは納得できない」と話した。この裁判では検察側が懲役10年を求刑したのに対して、判決は懲役9年の実刑判決だった。(読売新聞・09/10/17)
 
 裁判員裁判が意義深いのは、一般市民が敷居の高かった裁判所で発言、質問することで、これまで他人任せだった社会の一部に参加できるという点である。職業裁判官にはなかった視点での裁判員による質問も、市民感覚を量刑に反映させることができる。
 
 一方で、今後はプロの法曹家でも判断に迷うような複雑な裁判を受け持つ可能性も大いにある。被告人が怒鳴ったりして裁判員が萎縮するような例も出てくるかもしれない。そんなときでも裁判員は「その他大勢」として遠巻きに裁判を見つめるのではなく、被告人と対峙する冷静な姿勢が求められる。
 
 大切なのは量刑判断だけではない。今年の法曹界では「足利事件」で管家利和さんの冤罪が大きな出来事だった。謝って済むなら警察も検察も裁判所も要らないが、17年ものあいだ収監されていた管家さんの心境は想像するに余りある。こうした冤罪を作らないためにも、裁判員は検察が提出する証拠や証人の証言などを精査しなければいけない。公判廷の基本である「疑わしきは罰せず」という推定無罪の原則を忘れてはならない。
 
 冤罪は取り返しのつかない出来事ではなく、新たな「事件」を生み出すようなものである。冤罪被害者には国側から補償が成されることであろうが、人の人生というのは物ではない。償っても償いきれないような冤罪はあってはならない。
 
 被告人と向き合い、被害者の声も忠実に拾っていく責任は決して軽くない。「複雑な事件を短期間で審理できるのか」といった声が裁判員からあった。裁判員制度は今後検証すべき課題も出てくるであろう。被告人と被害者の人生がかかった真剣な審理が求められる。
 
 冒頭のさいたま地裁での被告人は「素人裁き」に納得がいかなかったようであるが、正直に話せば刑が軽くなるという前提で裁判は進むものではない。単に、懲役9年という判断されるような悪いことをしただけ、そういう判断が下されただけである。
 
 
☆ 自分を激しく信じて、激しく疑え 。(二宮清純)
 
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判決を復唱し・・元アイドルの女性の有罪判決に想う

 
 「懲役1年6月、執行猶予3年」。トップアイドルとして不動の地位にいたにもかかわらず、一気に転落した女性。台湾、香港、そして中国メディアもトップ級で報じた。それくらいに影響が大きかったのである。薬物の恐ろしさよりも、やはり「なぜあの女性が」とショックだったファンが日本国内外で多かったに違いない。中国のファンは「執行猶予付きの判決は更生のチャンス。また頑張ってほしい」とエールを送った。
 
 9日の法廷の中で村山裁判官は「あなたはドラマなどでさまざまな役をこなしてきましたが、残念ながらこれは現実です」と女性を諭した。しかしこれは女性だけに言えることではない。
 
 毎日のように報道される薬物事案では、誰が捕まってももう驚かなくなった。それどころか、こうした報道に接して「これが現実」であることを前提に、確信的に自らも薬物に、犯罪に手を染めてしまう者が後を絶たない。脳や体を破壊し、家庭や地域、そして社会を汚染する犯罪者になることに実感の無い者が多すぎるのである。
 
 女性の芸名、そして元々の名前は言うまでもなく。裁判員裁判PRドラマに出演したのも名前に「法」の字が使われていることに関連している。「のりこ」という名前はいくつかの漢字を当てはめることができる。法子、徳子、典子、則子、規子、教子、範子、倫子、訓子、敬子、師子、能子・・・どれも規範や規則を意味する漢字が並ぶ。
 
 そして「法」の字を調べてみると、「人々の生活を取り締まるために定めたわく。おきて」とある。さらに字の解説に、「池の中の島にいた獣を押し込めて、外に出られないようにしたさま。獣はその枠の中では自由だが、その枠外には出られない。広くそのような生活にはめられた枠をいう」とある。
 
 女性が本当の意味で更生するとき、それは間違った行いをしている者に対して、それは間違いである、悪いことであると目をそらさずに言うことである。少なくともこれからは、自分の子どもに対して正しい姿でいてほしい。
 
 異例なことだが、裁判官は判決主文を女性に復唱させた。女性は小さな声で「1年6月、執行猶予3年です」と言った。言わされたセリフとしては、女性がこれまでこなしてきた台本のそれよりも、女性個人として、一番重い文言となったに違いない。
 
 
☆ 現実の自分が、「もしかしたらなれたかもしれない自分」に悲しげに挨拶をする。 (フリードリッヒ・ヘーベル)
 
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「感極まった」検察官が涙の求刑 交通事故公判で 松江地裁(2009.11.6)

 検察側は禁固6年を求刑し、弁護側は寛大な刑を求めた。自動車運転過失致死罪に問われた、元アルバイト店員の女性被告(当時19)は、平成20年8月、松江市の国道で乗用車を仮免許中に運転、時速約100キロを出して街路樹に激突。後部座席の10〜20代の3人を死亡させた。助手席に乗っていた車の所有者の男性(24)は過失致死罪で松江簡裁に略式起訴されている。
 
 「本当に申し訳ない」「悔やんでも悔やみきれない」。事故直後に女性被告と助手席の男性が発した言葉である。「深夜で車や人通りが少ないから、運転の練習をしたかった」と言った女性被告。男性は「スピードが出すぎだ」と注意したが、それをよく聞いていなかった女性は彼のほうを見てすぐに視線を前方に移したが、車が左に寄っているのに気づき、ハンドル操作を誤り中央分離帯に衝突した。冒頭の2人の言葉に嘘偽りはなかったようだ。(※)
 
 5日に松江地裁で行われた公判では、結婚後間もない夫を亡くした妻が「生きる希望をなくした」と号泣しながら意見陳述。その後の論告求刑で検察官が、「遺族の方々の心中は察するに余りある」と涙を流しながら発言すると、傍聴席からもすすり泣きが漏れた。
 
 検察官は「遺族からずっと話を聞いていたので感極まった。お恥ずかしい」と記者の問いかけに対して述べた。
 
 恥ずかしいことはない。
 
 人はなぜ悲しくなって涙が出るのだろう。それは単に悲しい経験をしたことがあり、またはそんな人が身近にいるからということではない。
 
 本当に悲しい経験をした人というのは、快晴で、穏やかな陽気の中、下を向けばきれいな花が咲いているにもかかわらず、涙をぽたぽたと落とさなければならなかったほどの経験をした人であるに違いない。
 
 
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★ 松江地裁で検察官が涙の求刑 「感極まった」(産経新聞・09/11/5)
 
 (※参考=読売新聞大阪朝刊・08/11/23)
 

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教え子暴行46件、元小学校教諭・M被告に懲役30年の最高刑 広島地裁(2009.9.14)

 多数の教え子の女児に性的暴行を繰り返し、強姦、同未遂、強制わいせつ、児童福祉法違反の罪に問われていた、広島県三原市中之島、元小学校教諭M被告(43)の判決が広島地裁であり、奥田哲也裁判長は求刑通り懲役30年を言い渡した。これは有期刑では最高刑に当たる。
 
 M被告は01年11月〜06年7月までの間、勤務先の小学校内や自家用車の中で教え子の女児に乱暴、強姦罪46件、同未遂11件、強制わいせつ13件、児童福祉法違反13件で起訴されていた。M被告は被害児童に口止めをし、「写真をばらまく」などと脅した。行動を不審に思った校長や市教委の指導を受けた後も犯行を繰り返し、検察は再犯の可能性の高さを主張した。
 
 M被告は検察の調べに対して「教諭になってから27人の女児にわいせつな行為をした」と供述。被害女児の母親の意見陳述では、女児が事件後に心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断され、「生きる意味がない」と言ってリストカットするようになった状況も明らかにされた。他の母親の意見陳述では「子供の人生がめちゃくちゃになった。服役を終えて社会に出るなら、(悪いことをした)腕を切り落としてこい」と発言した。
 
 まさに鬼畜の所業だ。特に校長らが指導を受けた後も犯行を続けたことからも、性犯罪の再犯性がよく分かる。自分の教え子を脅して乱暴する。子供たちの恐怖、大人への不信感は言葉で言い尽くせない。心が殺されるような犯罪は、懲役刑や死刑以上の厳罰がないことがもどかしい。
 
 このまま刑が確定すればM被告は73歳まで”ムショ暮らし”だ。子供たちが早く明るい笑顔を取り戻せるといいと思う。それには、頼もしく優しい大人たちの支えが必要だ。そしてそんな被害者を救ってくれるのは友達だ。事件の舞台となった学校が被害者にとって、友達と楽しく過ごせる学校として早く元通りになりますように。
  
 M被告にエールを送りたいと思う。
 
 
 ざまあみろ。生きて苦しんでください。長い刑務所暮らしで、あなたの心が死にますように。
 
 
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★ 教え子強姦46件、元小学校教諭に懲役30年 広島地裁(朝日新聞・09/9/14)
★ 教え子乱暴で懲役30年(産経新聞・09/9/14)
★ 女子中学生にわいせつ行為の教諭を逮捕 同僚は教え子への強姦などで公判中の小学校(産経新聞・09/5/14)
★ 児童買春教師逮捕、元同僚も強姦犯 広島県警(本ブログ・09/5/14)
★ 教え子と性的関係 大津(本ブログ・07/5/25)
 
 

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老老介護の現実  進行する高齢化の問題

 このブログの中に「本日人気のあるエントリ」というのがあり、アクセスの多いものが並んでいる。最近は見なくなったが、かつては「南田洋子の認知症『介護は恩返し』長門裕之」がトップに上がっていた。テレビで見かけなくなった南田洋子さんが認知症を患っていたことに多くの人が衝撃を受けたことであろう。この様子はテレビで放映された。
 
 このテレビ放映に対して嫌悪感を覚えた方も多くいる。つまり、「認知症の妻をテレビで見せ物にするとは」というものである。本人の意思が確認できないのに、そのプライバシーを勝手に放映するとはよろしくない、ということである。長門さんに対する反発もあるであろうし、テレビ局に対してもそうであろう。その考えはよく理解できる。
 
 参考までにこのブログで「南田洋子さんのテレビ公開」についてアンケートを募ったところ、反対が7,賛成が16、どちらとも言えないが6であった。私は賛成である。南田さんの意思が不在であるのは認知症が進行している状態ではどうしようもない。そうであれば南田さんの代理人、すなわち成年後見人である長門さんの意思決定が重要になる。
 
 長門さん自身も高齢でありお金の問題もある。公開することで経済的負担をなくせる部分があることも本音だと推測する。とりわけ子供のいない長門夫妻が頼れる介護者はデイケアのヘルパーさんであり、長門さん自身である。
 
 家庭によっては施設に入院させることもできるであろう。しかし誰もがそれをできるわけではない。老老介護の現実を知る機会は少ない。6年後には日本の人口の4人に1人が65歳以上になる。これはもう一部の人の問題ではない。
 
 介護の経験をまとめた本なども多数あるが、映像のほうが分かりやすいことが多い。そういう意味で老老介護の現実を知る上で必要な情報の提供方法だと思う。そして夫婦で過ごせるという意味で南田さんは幸せだとすら思う。
 
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
 
 介護が起因する悲劇は後を絶たない。その中で印象に残っているのが、2006年に京都で起きた承諾殺人である。
 
 京都市伏見区の河川敷で母親(当時86歳)を絞殺した50代の男性被告は、被告人質問で事件の経緯について語った。男性は介護のために仕事を辞めた。生活保護費の受給申請に福祉事務所を3回訪れたが申請は拒否された。生活費を削るもアパート代金すら払えなくなった。男性は母親に対して献身的な介護を続けていたが、経済的に困窮してしまい絶望した。母親を殺して自分も死のうと決意した。
 
 「母親に『僕と一緒にどこにでも行こうか』と聞くと、にっこり笑ってくれた。最後まで2人で行こうと思いました」、「この手は母親をあやめるための手か。心の負の遺産を作ってしまった」と涙ながらに述べると法廷は静まりかえり、傍聴席からすすり泣きが漏れた。
 
 検察側は「被告は母親をこよなく愛し、一緒に行きたいと思い、最後の瞬間まで介護を続け、被害者と心中に至った。しかし親族に援助を求めることなどもできたのに『人に迷惑をかけてはいけない』という自分の生き方を優先させており、命の尊さに対する理解が欠けている」とした。これに対して弁護側は「法的に非難することはできても、道義的に非難することはできない」と反論した。
 
 検察は被告を非難したと同時に「被告は母親を長年にわたって献身的に介護しており、2人で生活できる方法を模索したが、見つけることができなかった」と被告に有利な情状も述べている。
 
 06年7月21日に京都地裁で男性に対する判決が出た。承諾殺人と銃刀法違反の罪に問われた男性に対して、東尾龍一裁判官は懲役2年6ヶ月(求刑3年)、執行猶予3年の判決を出した。
 
 「被告は行政からの援助を受けられず、経済状態が急迫し、心身ともに疲労困憊となり、愛する母親をあやめた。その苦しみや絶望感は言葉では言い尽くせない」。「母親は献身的な介護を受け、犯行前日には、思い出のある京都市内の繁華街を案内してもらっている。恨みなどを抱かず、厳罰も望んでいないと推察される。自力で更生し、母親の冥福を祈らせることが相当」と述べた。 
 
 判決の後に同裁判官は「生活保護行政も問われている。事件に発展した以上は、対応すべきだったかを(関係者が)考える余地がある」と福祉行政について踏み込んだ発言をしている。
 
 東尾裁判官は最後に被告に対して「絶対に自分をあやめることはしないようにして、お母さんのためにも幸せに生きてください」と諭した。
  
 公判を傍聴していた男性(60)は「母親は4月に亡くなったが、自分も『母親と一緒に死にたい』と思ったことがある。こういう悲劇が起きなければ、介護で辛い思いをしている人の声が世間に届かないことが悲しい」と述べている。
 懸命に介護をしていても、それが犯罪になってしまう悲劇。手を下した男性は悪い。しかしそのきっかけを作った所に責任はおよばない。これは3年前の事件であるが、その後も同様の事件は続いている。
 
 
※ 「承諾殺人」の男性はその後に亡くなっていることが分かりました↓
 
★ 介護殺人その後 加害者も心に大ダメージ 社会復帰に壁(毎日新聞・2016/1/5)
 
 
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★ 南田洋子の認知症「介護は恩返し」長門裕之(本ブログ・08/10/4)
★ 消えていく記憶 認知症の南田洋子(本ブログ・08/11/3)
★ お年寄りと接する”常識”の変化(本ブログ・09/2/19)
★ 認知症妻介護役を好演 長門裕之 「ショカツの女・3」
※「京都の承諾殺人」参考=読売新聞06.6.22、06.7.6、06.7.21、06.7.22。
 
 

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どんな被告に対しても冷静な判断できるか 裁判員裁判

 青森地裁で3例目の裁判員裁判があった。強盗強姦罪などの罪に問われた男性被告(22)を審理することになったが、被告が罪を認めていることから量刑が焦点となった。被害女性2人のプライバシーを保護するために氏名は伏せられ、「Aさん」「Bさん」となり、住所も省略されるなどの配慮がみられた。
 
 裁判員の男女比が5:1、補充裁判員は同1:2となり、性犯罪者を裁くことに懸念する声も出た。本当に被害者の気持ちをくむことができるかどうかという意味もある。しかし裁判員の男女比を問題にすることは意味のあることか。初の裁判員裁判で裁かれた男性被告人(72)は「もっと年配の人に裁いて欲しかった」と述べている。
 
 裁判員裁判の利点の1つは量刑にプロの裁判官の判断だけではなく、民意が反映されることにある。裁判員と裁判官で裁かれる部分に民意が込められることに意味がある。裁判員の年齢や男女比が偏っていたとしても、真実を追究するために裁判員がそこにいることに代わりはない。
 
 さらに、殺人事件や強姦事件といった凶悪事件の内容は全てが異なる。裁判員のみならず、被告人や被害者も性別が違えば年齢も違う。だから無作為に選ばれた裁判員は意味がある。被告人や被害者が裁判員の年齢性別を選ぶようなことがもしあれば、裁判の公平性という根本的な部分が意味を成さない。
 
 新しい事柄が始まると誰かや何かに負担が生じることがある。それが裁判員裁判において、性犯罪被害者であったことは残酷であったかも知れない。
 
 被害者の1人は意見陳述で「(報道されるのも)嫌だった」としたが、被告人の不幸な生い立ちに対して「私も母子家庭で育ちました。育った環境と事件を起こしたことは関係ありません」と述べ、「この場に来るかどうかとても迷いましたが、一言気持ちを伝えることでいくらかでも刑が重くなるのであればと勇気を出してきました。犯人はとても許せるものではありません。一生刑務所に入って欲しいと思います」などと述べた。一般国民である裁判員にこうした声が直接届いたことは意義があると思う。
  
 これまでの裁判員裁判では被告人全員が罪を認めており、量刑審理が焦点となっている。これから問題になるとすれば、被告人が容疑を否認したり、裁判員に暴言を吐くなどの悪態をつくようなことがあった場合である。さらに死刑が量刑の視野に入るような場合も裁判員は冷静な視点を持たなくてはならない。
 
 ところで裁判員裁判から除外される初の事案がさいたまであった。埼玉県ふじみ野市で住吉会系暴力団幹部が射殺された事件について、さいたま地検は組織犯罪処罰法違反(組織的な殺人)で起訴した山口組系幹部について、裁判員裁判の対象事件から除外するようにさいたま地裁に請求した。埼玉県警によると「近年では例を見ない大きな抗争」とのことで、裁判員に危害が及ぶ恐れがあるため。
 
 この事件は埼玉県三郷市で、山口組関係者が住吉会系組幹部らに刺殺されたのをきっかけに抗争に発展。埼玉県警は一連の事件で組関係者20数人を殺人容疑などで逮捕しており、上層部への突き上げ捜査を行っている。
 
 捜査関係者によると、山口組の組員らは、逮捕された組員の供述や捜査の行方を注視しており、公判廷には多くの組員が傍聴に訪れる可能性が高いという。そのため「法廷の質問などで刺激された組関係者が法廷外で裁判員に接触して脅したりする恐れもある」と言う。
 
 被告人が暴力団員だからといって直ちに裁判員が除外されるわけではない。裁判員法では、被告の言動などから、裁判員や家族が危害を受ける恐れがある場合には、裁判員裁判の対象から除外され、これまで通り職業裁判官だけで審理する。裁判員の氏名や住所などは公表されず、裁判所には金属探知機もあるため傍聴席に凶器の持ち込みなどはできないが、埼玉の事案は万全を期すための処置である。
 
 
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★ 埼玉の暴力団抗争殺人、「裁判員」除外請求へ(読売新聞・09/7/17)
★ 裁判員制度 トピックス(産経新聞)
★ 裁判員裁判の未来 その時のための心構えとは(本ブログ・09/8/10)
★ 「刑務所に入った人間と友達、考えられない」と発言した裁判官(本ブログ・09/1/14)
 
 

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裁判員裁判の未来 その時のための心構えとは

 東京地裁で全国に先駆けて行われた裁判員裁判で、殺人罪に問われた男性被告人(72)に懲役15年が言い渡された。裁判員は職業も年齢もさまざまであり、判決後の記者会見ではさまざまな思いを述べた。
 
 ピアノ教師の女性(51)は「色々と話し合う中で、気持ちが揺れた」とし、男性会社員(43)は「多くの情報の中からどれが大切かを決め、集中してやらねばならず、仕事と違う疲れ方をした。『自分が』という気持ちが強かったが、みんなで最終の結論に持って行くんだ、と考えられるようになってからは気が楽になった」と語った。
 
 遺体の写真について、女性契約社員(38)は「見ておくべきだと思って見させてもらった」と語り、女性会社員(50)は「私は大丈夫だという時点まで見て、目を伏せた」とした。
 
 アルバイト男性(61)は判決前夜「被告には不幸な面もあり、やることがうまくいかなかった不器用な人。私も還暦を迎え、被害者や遺族のことも考えて、涙が出た」とコメントした。
 
 東京地検の谷川恒太次席検事と青沼隆之特別公判部長はそれぞれ、「準備を生かし、工夫に努めた立証活動ができた」とし、「主張の核心部分は認定された」と判決を評価。「裁判員にも『分かりやすかった』と評価してもらえた」と述べた。
 
 一方、被告人の弁護人を務めた、伊達俊二弁護士は「量刑に不満はない」とした上で、「判決では『被害者に犯行を誘発する行為があった』という背景事情が全く認められず残念。裁判員に『反省の態度が見られない』と判断されたのかもしれない」と述べた。
 
 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
 
 裁判員制度について反対する向きもある。素人が他人の人生に関わって良いものかと考えることもある。しかしこれまで我々は、そうした重責を国に一任してきた。その結果、重大犯罪の量刑に不満があれば「おかしい」と言ってきた部分もある。
 
 裁判員裁判が有益だと思うことは、民意が反映される裁判が期待できることにある。プロである職業裁判官にない素朴な視点で被告と向き合うこともあるだろう。今まで無関心だった犯罪や、その後の裁判に携わるというのは、国民が安全な日常生活を送る上での意識の高まりが期待できる。
 
 しかし裁判員の1人が語ったように、「証人が多く出てきたり、死刑が選択肢の中に出てくるような公判の場合、4日という短期間では足りないのではないか」という不安もある。今後は人が人を裁くことの難しさをより多く感じる公判廷も開かれることになるだろう。
 
 大切なことは何か。目の前にいる被告人と無罪推定の下に対峙し、殺人事件であれば被害者の声なき声に耳を傾けることである。
 
 そして、単純に犯罪だと割り切れないような案件も出てくることになる。
 
 裁判員裁判ではないが、4日に福岡地裁久留米支部で行われた裁判では、承諾殺人罪に問われたのは91歳の女性被告人だった。
 
 検察の起訴状によると、被告は08年7月30日、福岡県内の自宅で次女(61)に承諾を得て睡眠薬を飲ませ、ビニールひもで首を絞めて窒息死させた。自分も睡眠薬を飲み、ビニールをかぶったが一命を取り留めた。
 
 次女は夫を亡くし、87年から精神科に入退院を繰り返していた。07年の正月には「病院でいじめに遭ってる」と母親である被告人に訴えた。「自分が娘を治してみせる」。周りが反対をしたが08年3月に被告人は娘を自宅に引き取った。
 
 事件はその5ヶ月後に発生。「一緒に参ろうか」「ばあちゃんそうしよう」。遺書に連名で署名すると、ベッドの横に並び、手には数珠を握らせた。
 
 出廷した入院中の被告人は、押し車で体を支え入廷するとハンカチで涙をぬぐい始めた。
 「1人だけ残って苦しゅうございます。娘も苦しかったろ。すまんやった」。孫にあたる次女の息子には「たった1人のお母さんを殺してすまんかった」。息子は「祖母は本当に苦しんでいた。責めるつもりはない。何で気付いてあげられなかったのか」。法廷には被告人と遺族のすすり泣きが響いた。
 
 検察は懲役4年を求刑し、判決は10月6日に言い渡される。
 
 日本の戦後復興に身を捧げた多くのお年寄りがいる。その中の1人である91歳の被告人。裁判員はこうした被告人にも正面を見据えて耳を傾け、質問をする必要があるのだ。裁判員となるかもしれない自分たちに課せられた責務は、誰が裁くかでもなければ誰を裁くかでもなく、裁くべき事は何かを考えることにある。
 
 
 ☆ 我々の憎悪があまりに激しくなると、憎んでいる相手よりも下劣になる。(ラ・ロシュコー)
 
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★ 「裁判変わる瞬間みたい」傍聴求め2300人(朝日新聞・09/8/3
★ 「苦しゅうございます」心中承諾殺人 91歳母謝罪 病弱の娘を介護の果てに(西日本新聞・09/8/5)
 

 
 

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「違法捜査だった」服役中の道警元警部が証言 =”S”を使った冤罪=(2009.8.1)

 97年にロシア人船員が銃刀法違反で逮捕された事件を巡り、元北海道警警部(55)や道警幹部らが、捜査書類の偽造や偽証、おとり捜査を隠蔽していたとされる事件があったが、服役した元船員のロシア人男性(39)が「違法なおとり捜査で損害を受けた」として、国と道に2310万円の損害賠償を求めた訴訟に関係して証人尋問が行われた。
 
 覚せい剤取締法違反で服役中の元警部に対する尋問は、千葉刑務所の出張法廷で行われた。非公開で実施され、中山幾次郎裁判長、原告、被告双方の弁護団が立ち会った。
 
 原告側の弁護士らによると、元警部(当時は警部補)は道警銃器対策課(現:銃器薬物対策課)に勤務していた当時、この事件に関与したパキスタン人男性ら”S”(=スパイ・捜査協力者)に、飲食などの接待を通じて「誰かに拳銃を持って来させろと指示していた」と証言。事件について「(拳銃を)持ってくる気のない人に持ってこさせた。違法だった」と述べた。
 
 以前に偽証したことについては「その方針を固めたのは自分より上の人間だった」と組織内の関与を認める発言をした。
 
 訴状によると、ロシア人男性は97年11月、パキスタン人男性から「拳銃と中古車を交換してやる」と持ちかけられ、小樽港で拳銃を渡そうとしたところ、道警銃器対策課員に現行犯逮捕された。男性は「違法なおとり捜査」と無罪を主張、しかし元警部が偽証したことから懲役2年の実刑判決を受けた。
 
 その後、偽証が発覚し、道警は元警部と元警視、警部補ら計4人を虚偽公文書作成・同行使容疑で書類送検したが、札幌地検は不起訴処分とした。05年にロシア人男性が損害賠償請求を起こした。男性側弁護士は「現場にいた元警部から違法捜査の証言を得ることができた。最大の収穫」と語った。
 道警の組織的関与が濃厚になってきているが、関与については一貫して否定している。道警は「係争中なのでコメントできない」としている。2002年7月、道警が元警部を覚せい剤取締法違反で逮捕。のちに銃刀法違反などで再逮捕。元警部に事件を指示した元上司の警視が自殺している。
 
 おとり捜査には、捜査当局が犯罪そのものを引き起こす意図で行う「犯罪誘発型」と、あらかじめ設定された機会を利用するに過ぎない「機会提供型」がある。一般に前者は違法(米国などでは合法)、後者は適法とされる。
 
 銃器・薬物の捜査は難しい。捜査員だけでの摘発もあるだろうが、”S”=捜査協力者の関係は欠かせない。闇の組織に近い彼らが情報を「タレこんで」くるから、捜査体制も整えることができる。「おとり捜査」やそれに近いことも行われている可能性も高い。すなわち、捜査員が犯罪に加担する危険性もはらんでいるのだ。
 
 いずれにせよ、犯罪者でもないロシア人男性には正面を向いて道警は話さなければならない。元身内が証言している以上、違法捜査ではないと否定するのであれば、立証責任があるのは道警のほうだけである。
 
 
☆ 名言のない時代は不幸だが、名言を必要とする時代はもっと不幸だ。(ブレヒト)
 
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★ 拳銃おとり捜査:北海道警察の元警部「違法捜査」と証言(毎日新聞・09/7/31)
 
 

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