カテゴリー
ニュース

2009年のニュースを振り返る・4【時効の是非】

 今年は時効の議論が活発になった年でもある。時効の成立によって真相究明に終止符が打たれる。しかしながら凶悪事件の被害者やその家族の無念さははかり知ることはなく、残りの人生を悲しみに費やすことになる。
 
 法務省は21日、凶悪事件の公訴時効を見直す具体的方策を提示した。法制審議会に提示されたのは、(1)時効の廃止(2)時効期間50年など大幅延長(3)容疑者を特定できなくてもDNA型情報を被告として起訴する制度(4)一定の証拠に基づいて検察官の請求で裁判官が停止(中断)する制度の4つ。
 
 また、廃止と延長の組み合わせも提示された。法定刑の上限が死刑に当たる殺人罪などは、現行の時効25年から「廃止」にする。上限が無期懲役の強制わいせつ致死罪などは、現行の15年から30年に延長。上限が懲役20年の傷害致死や危険運転致死罪は、現行の10年から20年に延長、などである。法務省は意見を一般から募ることにしている。今夏に一般から募った意見では7割が時効の廃止・延長を支持している。
 
 (1)の時効の廃止だが、前にも書いたように、容疑者が特定できている事件に関しては時効を無くしたほうがよい。被疑者が分かっているのに捕捉できないがために犯人を野放しにすることは社会にとって脅威である。しかし完全に廃止してしまうと、例えば明治時代の殺人事件の犯人を平成のいま特定したところで、社会正義が成り立つのかどうか疑問が残る。証拠品の保管場所確保についても現実的ではない。
 
 そういう意味では、(2)の時効期間50年など大幅延長は現実的だ。1警察官が退職するまで約40年ほどであることを考えれば、歴史の生き証人である我々の記憶があるうちに容疑者を逮捕できる可能性がある。科学捜査も進歩することであろうし現実的である。実際、今年冤罪であることが分かった「足利事件」の管家利和さんの場合、逮捕当時のDNA鑑定の精度の低さが冤罪を作り出した問題の一つであった。その後の鑑定技術の向上で管家さんは晴れて無罪と確定するのである。
 
 (3)は考えたこともなかったが、容疑者本人ではなく、そのDNAを起訴して事件に一定の完結性を持たせるということか。勿論、容疑者が確保され次第、”DNA”と同様の裁きを受け継ぐことになるのかもしれない。
 
 (4)も現実的である。証拠がそろっていて、十中八九”クロ”である容疑者がいた場合、時効の中断により、容疑者を精神的に追い込むことができるであろう。無尽蔵に時効を廃止よりも法運用の流れに整合性がある。
 
 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
 
 時効について考えれば、法制審議会の今後の判断に注目できるが、それと同時に考えなくてはならないことがある。それは事件が起こらないような社会環境の整備だ。先日、茨城連続殺傷事件の金川真大被告人(26)に死刑判決が出た。事件の態様を考えれば予想された判決である。自分勝手な妄想にとりつかれた犯罪者の言い分は身勝手で、何の関係もない人を傷つけた罪は極めて重い。
 
 大切なのは教育である。親が、学校が、社会が人を育てていくことを放棄したとき、その隙間に犯罪は生まれる。挑戦的な態度を法廷でとり続けた金川被告も、幼なじみの男性が面会に来たときには動揺を見せた。
 
 男性が「優しそうな昔のイメージのままだ。絶対やるはずがないと思っていた」「どうしてそんなふうになっちゃったの?」と尋ねられると、金川被告は「大して変わってないよ。単につまんないから、人生やめるかって」と答えた。平静を装っていたが、目は潤んでおり、のど仏を上下に動かして嗚咽を我慢している様子であったという。金川被告の周りにこの男性のような人が声をかけてあげられたら、防げた事件かもしれない。
 
 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
 
 公訴時効の廃止・延長が現実的になったとしたら、忘れてはならないことがある。事件を捜査機関に任せるだけではなく、我々もその事件を忘れてはならないということだ。諸外国に比べると日本はまだ治安がよいほうである。それは日本人の国民性が大きく影響していることを忘れてはならない。
 
 
☆ 時が癒やす?時が病気だったらどうするの?(『ベルリン・天使の詩』)
 
☆ 人気ブログランキング(国内ニュース)に参加しています。クリックのご協力をお願いいたします。
 
★ 公訴時効:廃止など4案を提示 法務省が法制審部会に(毎日新聞・09/12/21)
★ 幼なじみの言葉に目潤ませた金川被告 接見時(読売新聞・09/12/18)
 
★ 時効の殺人 民事賠償確定へ 最高裁(本ブログ・09/4/18)
★ 時効成立 井の頭公園バラバラ殺人(本ブログ・09/4/24)
★ 愛知一家殺傷 犯人の異常な行動(本ブログ・09/5/11)
★ 時効まで2ヶ月半、傷害致死容疑で元同僚逮捕 検視に問題なかったか 京都府警(本ブログ・09/7/19)
★ 東京・八王子スーパー強盗殺人事件 時効まで1年(本ブログ・09/7/25)
★ 警視庁に”特命”新設 時効間近の重大事件を扱う(本ブログ・09/11/2)
  
 
 

(Visited 59 times, 1 visits today)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です


モバイルバージョンを終了