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都会の死角で起きた暴行事件

衆人環視の状況で被害に遭う人は多い。その場にいたらどうするか。

 
 女子高校生が東京の私鉄車内で痴漢行為の被害に遭ったあと、終点の新宿駅近くの公衆トイレで暴行された事件は、痴漢・強姦という女性を辱める犯罪がエスカレートしただけではなく、多くの人が行き交う都会の中の”死角”で起きた事件であった。
 
 犯罪心理に詳しい新潟青陵大学大学院の碓井真史教授は「人が大勢いることで、責任が分散してしまい、逆にマイナスに働くことがある。他人が危険な目に遭っているのにもかかわらず、助けを出さない、援助行動をしない『冷淡な傍観者』になってしまう」と指摘する。さらに、「都会ではさまざまな現象が起きているため、他人のことには首をつっこまず、トラブルに巻き込まれないようにする『都会のマナー』が存在する」と語る。
 
 過去にも同様の犯罪は起きている。06年8月、JR西日本の特急車内で、解体業の男(36)が20代女性の隣に座り、「声を出すな。殺すぞ」と脅してわいせつ行為に及んだ。さらに男子トイレに女性を連れ込み乱暴した。新宿の事件同様に犯行態様がエスカレートした。それだけではなく、他の乗客約40人がいたにもかかわらず、男が「何を見とるんじゃ」と怒鳴ると、男を制止するなどした人はいなかった。男は別の強姦事件で滋賀県警に逮捕されたが、この事件で採取されたDNAが一致したことから大阪府警にも逮捕された。直接注意できなくてもこのご時世、携帯電話で通報するなど方法があったはずであるが無理だったのか。
 
 04年10月、電車内で女子生徒を取り囲んで体を触るなどしたとして、男子高校生ら4人が大阪府警に強制わいせつ容疑で逮捕された。車内には数人の大人がいたが、被害の女子生徒によると「怖くて声も出なかった。気づいていたのに誰も止めてくれなかった」と泣きながら話した。
 
 94年10月、岡山県立高校の女子生徒2人が下校中のJR車内で酔っぱらいにからまれて、スカートをめくられたり顔を殴られたりした。女生徒2人は泣きながら途中下車した。この時も車内に50〜60人の乗客がいたが誰も男を制止することはなかった。
 
 しかも驚くべきことに、車内に乗り合わせた客の中には女生徒の通う高校の校長と教頭がいたことが判明、「背もたれがあって何が起こっているのかわからなかった」と話し、「自分の学校の生徒がからまれているとは考えてもみなかった。生徒を守ってやれなかったことは残念で、本人らには謝った」と釈明した。「下校中」は先生でもなく、正義ある大人でもなくなっていた。(※1)
 
 80年から90年にかけて「車内暴力」という言葉が頻繁に使われて報道された。そして今、周りに人が大勢いる衆人環視の元で行われる犯罪が増えてきているような気がする。それはこうしたわいせつ事件のみならず、暴行や窃盗、そして強盗が堂々と行われている。新宿の暴行事件で逮捕された会社員には高校に通う娘さんがいるそうである。同じ年頃の子供を持つ親として、犯意がひるむことはなかったのだろうか。
 
 冒頭で”死角”と書いたが、死角となっていたのは公衆トイレという物理的なものではない。危険に対して無知であり、他人に対して無関心な我々が”死角”そのものであった。
 
 93年3月、千葉県船橋市内を走行中の私鉄車内で、前に座っていた暴力団員風の男の指の入れ墨を何気なく見ていた男子高校生が、「何を見ているんだ。はっきり言え」と、本をぶつけられ、土下座を強要されるなどの暴力をうけた。高校生は泣きながら土下座をして謝り続けた。
 
 すると、乗り合わせたパートの主婦(48)が「学生さんが泣きながら謝っているのにひどい」と口を開いた。「あんたのような格好をしていれば、誰だって見るわよ」と、男を一喝。男は「分かりました。もう二度としない」と頭を下げて下車した。他の乗客からは「よかった」「勇気がありますね」と歓声が上がった。主婦は「ぶたれる覚悟はできていたけど、怖かった。当たり前のことをしただけです」。(※2)
 
 
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★ 4人で痴漢、周りは知らぬふり(本ブログ・04/11/30)
★ 【衝撃事件の核心】痴漢→婦女暴行 巨大ターミナルで”見殺し”にされた女子高生の悲劇(産経新聞・09/11/14)
★ 電車で痴漢の後に公衆トイレで暴行 強姦容疑で49歳会社員を逮捕(本ブログ・09/10/31)
 
※ 参考
(※1=読売新聞・大阪朝刊・94/10/20)
(※2=読売新聞・東京朝刊・93/3/5)
 
 

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