言葉のリサイクル

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コーヒー関係

 知り合いの女性が結婚することになった。共通の知人に「相手はどんなかたなんですか?」と聞いたのだが、「そこまでは聞いていない」と返された。不倫相手ならともかく、おめでたい話なのに相手の素性の一部も話をしないのはなぜだろう。
 
 その女性に直接聞いた。どんなひとなの、と。すると彼女は顔を赤らめて、相手が看護師であることと、彼の仕事の都合で都心でも有名な繁華街に住むことを教えてくれた。
  
 昨今、個人情報保護の意識が高まり、不用意に他人の個人情報を聞くことを避ける傾向にある。なるほど、情報は受け取らなければ流出の恐れもない。時代の流れであり当然のことである。質問される相手を傷つけずに済む。
 
 しかし、守るべきは職務遂行中に知り得た「個人情報」であり、それ以外の「個人の情報」ではない。付け加えて言うと、聞いても差し支えのない話で差し支えのない自分であるかぎり、尋ねることにためらう必要は全くないのである。
 
 個人の情報だからと躊躇ばかりすることで、人間関係が草食化し空洞化し無味乾燥化することに危機感を抱く。プライバシーなどという言葉が前面に出たがゆえに、長い時間を共有してきた人がどんな背景を持った個性なのかも分からずに、どうして有益な人間関係が築けようか。
 
 「看護師なんてすごいじゃない。人の体に触れるなんて私からすると考えられない。それなら、これから病気しても大丈夫だね!都会の高層住宅に住むなんてなんかかっこいいな!」
 
 「はい。なので、彼は家でゴキブリをみたことがない、というんです」
 
 「なるほどね。高層階に住んでいると蚊も入ってこないって聞いたことがあるからね」
 
 「今までと全然違う生活になるんですよ!」
 
 その女性は携帯電話を操作していた手を止めてニコニコしながら一気に話してきた。新しい生活に希望を抱いている、そんな感覚を覚えた。人間関係は温かいうちにもっと聞けばよいし話せばよい。コーヒーと同じ。
 
 
 

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