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変わるうつ病の診療

 うつ病にかかることが珍しくなくなった現在は、100万人がうつ病にかかっているといい、そのうちの25%の人が再発する。症状が改善されないと薬を増やすという方法が採られている。しかしそれがうつ病を悪化させる場合がある。
 
 日本うつ病学会の発表によれば、37%が誤診であるという結果もある。しかしうつ病の判断は難しい。患者の申告に頼るしかなく、患者がその状態を正確に伝えられることができなければ、薬の処方が難しく総合的になかなか治癒しづらい部分がある。病気のために意識がもうろう、記憶も無くなることもある。悲観的な状態で思考力が落ち、正確な症状を伝えることが困難な場合もある。内科や外科のように客観的に判断ができないために、医師のほうで正確な判断ができずに誤診する可能性もある。
 
 杏林大学でうつ病を診る田島治教授は、必要以上に薬が処方されているとみており、いったん薬の処方をやめて改めて症状を調べて、適切な処方量にやり直す方法を採っている。その結果、数年間うつ病で改善が診られなかった患者が急激に回復した。
 
 セロトニンという物質がその働きを弱めることによって起こるうつ病。しかしセロトニンが多すぎると、ドーパミンという物質が減る。その結果、やる気や意欲がなくなることから「うつ病が悪化」したと勘違いした医師はさらに薬の処方を増やすという悪循環になる。
 
 医師の選び方は以下に注意する必要があるという。
・薬の処方や副作用について説明をしない。
・いきなり3種類以上の薬を出す。
・薬がどんどん増える。
・薬について質問すると不機嫌になる。
・薬以外の対応法を知らない。
 
 誤診で苦しむ人も多い。ある中年男性は10年以上うつ病と闘ったが、実は双極性障害(躁うつ病)ということが分かった。うつ病と診断されてそれにあった薬だけ処方されると危険なのだという。 
 技術や経験不足の精神科医が安易に開業している部分も多い。内科や外科と違い、基本的には机と椅子があれば開業できる。設備投資に金がかからない分だけ安易に開業する医師も多いのだ。実際にうちの最寄り駅周辺を調べてみると、新しい精神科クリニックが多いことが分かった。ホームページなどでは、「ホテルのような落ち着いた雰囲気」をうたったところもあり患者を安心させているようだ。しかし、薬の副作用や病気についての専門家ならではと言った説明が患者側にはなく、薬の大量処方で終わってしまう悪質なところも多い。
 
 自治体では苦情を受け付けており、「公衆衛生上、重大な危害を生ずる恐れがある場合、行政指導・立ち入り検査ができる」としているが実態は難しく、医師が「私の処方・診断に間違いはない」と主張すれば行政のそれ以上の介入は困難であるという。
 
 近年では、客観的にうつ病かどうかを調べることができるようになっている。問診に頼っていたうつ病診断を血液の流れ等で客観的に判断できる装置も開発されており、誤診を防ぐ取り組みも始まっている。
 
 うつ病などの疾患の場合、認知行動療法が効果的であると言われている。イギリスで認知行動療法を取り入れた場合のうつ病の再発率は、抗うつ剤のみの処方で44%、抗うつ剤と認知行動療法で27%となっている。カウンセラーが患者の言いたいことを聞く「傾聴」だけではなく、患者の苦しみはどこにあるかを予め察知し、そこに気付かせるべく誘導するのだという。
 日本では認知療法でなかなか普及しない部分としては、精神科医、心療内科医が一日に診られる患者数にも限界があり、通常の診察以外に時間が割けないことが現実だ。このため、医師によっては近くにカウンセラーをおいて通常の診察行為で聞けない患者の声に耳を傾ける工夫をしている。臨床心理士が民間の認定資格であるために、保険対象外であることもネックになっている。
 
 患者さんが悲観的になるのは病気だからであって、患者さんの人生が否定されたわけではない。1日24時間は誰にでも平等に与えられた時間だ。忙しく過ごすのも、休養するのも、どちらも人によって有益であるわけで、他人と比べたりする必要は全くない。
 
 うつ病は「心の風邪」と言われている。それは必ず治るという意味と、誰でもなりうるという意味があるが、単なる気分の落ち込みとは訳が違う。周囲が気を配って話を聞いてあげることが1つの救いになるであろう。今年は春の訪れが少々早いようである。うつ病の患者さんにとっても、ちょっとだけ一歩踏み出してみようかなと後押ししてくれそうである。
 
 
☆ 靴が一足もなくて惨めな気持ちだった。しかしそれも、足を失った男を見るまでだった。(ハロルド・アボット)
 
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★ NHKスペシャル うつ病治療 常識が変わる
★ 抗うつ剤、効果に3割の差 日英伊研究、薬を順位付け(朝日新聞・09/1/31)
 
 

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