「ストリートビュー」は続けられるのか

  
 平成3年5月にいわゆる「暴力団対策法」が施行された。このときに初めて「暴力団員」という言葉が法律で明文化されたのである。それまでは大学のサークルや、主婦のお茶会などと同様に単なる任意団体に過ぎなかった。同法施行により公安委員会から「指定暴力団」と指定された組織が、それまで取り締まりが難しかった、民事介入暴力などのグレーゾーンの行為に対し、当局が中止命令を出したり罰則規定も設けられた。
 
 グーグル社の「ストリートビュー(SV)」が問題視されているが、SVは上記「暴対法」が施行される前の、グレーゾーンのようなサービスであるように思える。グーグル社が主張する「公道での撮影は問題がない」ということ自体は正しいからだ。
 
 その一方で、SVに対して、全国から規制を求める声が高まっている。「プライバシーの侵害」だとの反対派意見が多くなってきたのだ。福岡県弁護士会は「多数の市民の肖像を根こそぎ撮影し、事前に撮影の説明がない」とグーグル側にサービスの中止を求めた。東京・町田市議会などでは国に対策を取るように要望書を出している。
 
 今月の3日にグーグル社は、プライバシー侵害などに配慮し、撮影の事前に地元の自治体に説明するとした。しかし、自治体側から反対された場合、「許諾事業ではない」として明言を避けた。つまり、法的根拠もないのに反対されても、私企業活動であり、制限されるいわれはないということであろう。
 
◆ ややこしい問題がいくつかある。
 
 SV撮影車には、地上から2.5メートルの高さになるカメラが搭載されている。これにより、通常、人の目線であれば見えないはずの塀の中が見えてしまっていることだ。プライバシー権の侵害になる可能性もあり、軽犯罪法第1条23項の「正当な理由がなくて人の住居(中略)を密かにのぞき見た者」に該当する可能性すらある。あるサイトでは「我が家の洗濯物、SVで世界デビュー」なんていうタイトルも付けられているほどだ。
 
 プライバシー権の中に位置づけられる「肖像権」の侵害であるという指摘がある。グーグル社は「人の顔や車のナンバー、表札にはぼかしを入れている」とするが、完璧に機能しているとは言えない。しかし同時に、はっきりと特定の人物が写っているかどうかの判断も難しいところだ。そもそも肖像権というのは、言葉と定義は存在するが、法律的な根拠がない。すなわち法律の中に肖像権という言葉が存在しないのである。そのため、「肖像権を侵害された」として警察に刑事告訴はできず、民事裁判で争うことが多くなっている。
 
 肖像権については、被写体である写されるほうの承諾が不要な場合がある。見られることが目的の人のことである。試合中のプロ野球の選手、阿波踊りをしているグループ、デモ行進をしている団体などのことだ。これらの人たちは撮影されることをはじめから許諾していると認められるため、肖像権を主張できない。では、その周辺にいる観客や通行人が写ったらどうなるか。これも個人特定ができるものでなく、かつ、個人の名誉を著しく傷つけるものでなければ問題にならないだろう。報道陣は社の腕章を付けていることで、「撮影しますよ」という告知をしていることになっている。
 
 個人が特定できるようであっても、著しく名誉を傷つけたり肖像権を侵害するような態様の画像か否かが焦点となる。さらにSVの撮影行為が公の利益にかなうものかどうかも問題であろう。
 
 公道での撮影に限定されているはずであるが、明らかに私道または私有地に入って撮影している画像も明らかになっている。さらには「進入禁止」の標識を無視して進入している画像もある。建造物侵入や道路交通法違反の証拠画像をわざわざ公にしているのも皮肉な話だ。
 
 「要請に応じて削除している」というグーグル社だが、パソコンを使わない人にしてみれば、しらないうちに家や所有車が世界に発信されていることになり不愉快であろう。
(※上記の「私道」「私有地」のリンクは「高木浩光@自宅の日記」より)  
◆ ◆
 
 新しい技術を何でも規制することは良くないと思うが、規制がないから何でもするということも良くない。日本は賛成反対の意見が拮抗し、自由に意見が言えて良い国だと思う。自由があるから経済活動も自由になり、簡易で便利なサービスをも享受できるのである。
 
 そして肖像権が法律で定義されないほうがいい。何でもかんでも法制化してしまうと、我々は自由に写真が撮れなくなり不便になってしまう。創作の自由、表現の自由、そして報道の自由とのかねあいが難しくなる。それよりも大事なことは、そうしたプライバシーに関する知識、ネット上でのマナーの啓発である。
 
 グーグル社に提案なのだが、360度のパノラマ撮影をするのではなく、ナビゲーションシステムのように前方だけ、そして後方だけの撮影にしたらどうであろうか。これであれば、「防犯上不安がある」とか「ストーカーに利用される」とか、「洗濯物が世界にデビューした」といった懸案事項の多くがなくなることであろう。
 
 有効活用している不動産屋や引っ越し業者などもある。グーグル社は理解が得られるように、サービス体制を見直すべきであろう。少なくとも、自治体までもが懸念を示すようなサービスは考える余地が多分にある。
 
  
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★ グーグル「ストリートビュー」に全国から規制を求める声 プライバシー懸念拡大(産経新聞・09/2/7)
★ 杉並区、グーグルにプライバシー配慮申し入れ(朝日新聞・08/11/22)
★ グーグル地図機能、削除要請次々 職質中の男性写真も(朝日新聞・08/8/7)
 
 
 

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