刑務所で育てられる盲導犬

 自宅最寄り駅近くの繁華街に行列の出来る精肉店がある。客の目当てはコロッケで、連日夕方ともなれば長蛇の列になっている。某日そこを通る時、前に盲導犬のゴールデンレトリバーを連れているサングラスをかけた男性がいた。レトリバーは精肉店の方に顔をやると止まってしまった。事態を察知した男性は、「こら!」と言って叱るとレトリバーはまた前進を始めた。雑踏の中を人の”目”となって歩くのは大変だろうと思う。
 
 盲導犬を育成するには犬の適性を考慮し、訓練にも時間がかかる。需要と供給のバランスは等しくないのが現状だ。そんな中、刑務所で盲導犬を育成するプログラムが始まっている。そこは日本で初めての半官半民の刑務所である「島根あさひ社会復帰促進センター」だ。ここは比較的刑期の短い受刑者が入所し、犯罪を繰り返す者(累犯者)や暴力団関係者はいない。
 
 生後2ヶ月の盲導犬候補であるレトリバー3頭を、受刑者が独房で寝食を共にしながら育てる。夕食後の自由時間を使い、毛繕いや耳の掃除をしたり、ボールを使って子犬とふれあう。子犬は週末になると、パピーウォーカーと呼ばれるボランティア家庭に預けられる。独房の様子を報道陣に公開された受刑者は「週末はゆっくり眠れるという安心が2割、寂しさが8割です」という。
 
 以前、これと似たようなプログラムがヨーロッパの刑務所で導入された。育てるのは犬ではなく、「たまごっち」である。たまごっちはペットを育てるゲームであり、日本では90年代と2000年代にブームとなった。フンをしたら片付けなくてはいけないし、定期的にえさをやらないと”ペット”は死んでしまう。そのとき取材に応じていた受刑者の1人は「これが僕を必要としているんだ」と話し、何かに必要とされる存在を実感していた。
 
 島根の同センターでは、受刑者に対して子犬がしっぽを振って遊んで欲しい、トイレに連れて欲しいと訴えてくる。言葉が通じないので、思いやりがなければ子犬を困らせることになる。常に想像力を働かせなくてはならない。愛情の根本は想像力だ。
 
 犯罪には1つの共通点があると思う。それは「奪ってしまう」ということだ。窃盗、強盗、横領、詐欺など財産を奪う罪はもちろん、暴行や傷害は他人の平穏な日々を奪い、レイプや死体遺棄・損壊は人間の尊厳を奪い、そして殺人は人生を奪う。
 
 世の中はギヴ&テイクで成り立っている。このバランスを欠いてしまうと人として生きてゆくのに狂いが生じることになる。今まで何かしらを奪ってしまった受刑者にとって、次は必ず与える番なのである。それを無口な子犬が教えてくれるに違いない。
 
  
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★ 受刑者育てる盲導犬、独房での触れ合い公開 島根(朝日新聞・09/4/29)
★ 財団法人日本盲導犬協会
★ タレント犬、警察犬 人に仕える犬たち(言葉のリサイクル・09/4/16) 
 
 

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